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担当学芸員による坊っちゃん展 見どころご案内 (上・下) 上 2018年8月18日 (土) お知らせ,企画展

本展について展示順に沿って会場風景とともにご紹介いたします。本展には隠されたこだわりもたくさんありますので、一度いらした方もぜひまたこうしたポイントに着目して改めてお楽しみください。

 

祖父江 慎(そぶえ・しん)

本展のアートディレクションを務めるブックデザイナーの祖父江慎は、20年来『坊っちゃん』にまつわる様々なものを収集し、独自の切り口で研究を続けてきました。今回このご当地・松山で実現した展覧会のために、尋常ならざる熱意を注ぎ込み、印刷物はもちろん空間デザインやキャプションの文字のひとつひとつまで、こだわりの展覧会がいよいよ完成に近づいています。

 

メインビジュアル

今回のポスター、チラシの表にも採用されているレトロで素敵な天馬の図案は、中村不折(なかむら・ふせつ)によるもので、『坊っちゃん』が初めて発表された、『ホトトギス』第9巻第7号の表紙です。祖父江さんとの昨年末秋の初めての打ち合わせの際に、祖父江さんが収集していた複数のこの通称「坊っちゃん号」を眺めながら、自然とメインビジュアルが決まりました。サインや入口すぐの正面にも掲出されています。

 

ごあいさつ

まず入り口には「ごあいさつ」本文と合わせて漱石さんの肖像写真がお出迎え。

こちらの紙焼きは祖父江慎所蔵のもの。ごあいさつの文章のデザインももちろん祖父江さんの事務所コズフィッシュが手掛けました。

 

梅佳代「坊っちゃんたち」

入ってすぐの空間には、はじけるような元気いっぱいの中学生の男子生徒たちの写真が展開。漱石自身も愛してやまなかった道後温泉本館を舞台に、梅佳代がフィルムカメラで撮り切った作品群です。『坊っちゃん』に登場するやんちゃな生徒たちのイメージが想起されます。これらの作品は、道後オンセナートのプレオープンに合わせて昨年の7月に撮影され、道後商店街にも展示中です。ご協力してくださった皆さまに深く感謝申し上げます。

 

浅田政志「坊っちゃんアイ2018」

男湯・女湯お好みののれんをくぐると浅田政志コーナーです。浅田さんは今回ほぼ全ての作品を本展のために撮り下ろしてくださいました。漱石や坊っちゃんが現代の松山を訪れたらという視点「eye」、そして「愛媛」の名前の一部でもある「愛」は『坊っちゃん』への愛も含んでいます。この展示空間には浅田さんと祖父江さんのマニアックなこだわりが満載です。

 

写真と文字と資料の三つ巴  

 浅田さんの作品と合わせ、漱石の原文を活字にした引用を、浅田さん祖父江さんとのキャッチボールにより選定。さらにカッティングシートの限界を考慮したサイズで、昭和41年版の総ルビの全集からルビをつけて読みやすくしました。さらに小さなケースには、ゆかりの資料を展示。ここには古銭や『帝国文学』など祖父江さん自身による収集物も多く含まれる他、道後温泉本館や漱石が赴任した現・松山東高校が所蔵する貴重な資料も。所蔵先を記すのは、こだわって敢えて事務用のラベルシールです。(写真は道後温泉本館のコーナー。道後温泉事務所所蔵による貴重な明治・大正期の入浴券を展示)

 

浅田政志印のスタンプ

 額を見るとそれぞれに押印されている「浅田政志」のサイン。こちらは浅田本人がこちらの会場で押したもので、本展のために作成されたオリジナルスタンプです。字体ももちろん祖父江さんとの打ち合わせで決まりました。

 

背景の網点

 今回5つの作品の背景にはそれぞれ作品の一部を一色で引き延ばしているのですが、これが通常よりもかなり粗い網点となっています。山嵐におごってもらったかき氷の代金「一銭五厘」に因んで「1.5線」にしてしまいました・・・。また色によって網点の向きや配列も異なっています。この辺りのこだわりっぷりはもはやよく分からない領域に達しています・・・。(左手黄色の背景は漱石が赴任した現在の松山東高校の職員室。現役の先生方にご協力いただき、『坊っちゃん』の一節を再現していただきました。右手の写真では、左手の緑色がつぼや菓子舗のお団子、青は道後温泉本館、奥のピンク色がこのあとご紹介するターナー島です)

 

 

浅田さんの力作を何点かご紹介いたしましょう。

 

清 

入口すぐ右手には、遠くを見つめる女性の姿が。浅田さんが『坊っちゃん』を今回改めて熟読してみて一番気になったのがこちらの「清」。子どもの頃から坊っちゃんのお世話をしている女性ですが、松山へ赴任してからも坊っちゃんがしきりに気に懸けています。今回この清として登場しているのが、「浅田家」・母としても知られる浅田さんのお母様。自分にとっての清はと考えた際に、思い浮かんだのがお母様だったそうです。

 

坊っちゃん列車 

坊っちゃんの主人公は最後東京へ戻って東京市街鉄道の技手になります。このことから祖父江さんいわく、「鉄っちゃん」に違いないということで、この坊っちゃん列車の撮影には浅田さんにも力を入れていただきました。漆黒の闇の中に格好良く浮かび上がる車体。浅田さんは車掌としての登場です。

 

ターナー島

高浜沖にある無人島の四十島は、「青島」として物語の中に登場します。こちらも祖父江さんたってのリクエスト。強風の中の撮影はなかなか大変でしたが、マドンナを島に置いたら、という赤シャツと野だいこの会話に基づいて実行いたしました。麗しのマドンナはもちろん浅田さんご自身です。

 

他にも、「赤シャツ」で思い浮かんだのは同じ赤シャツが洗濯して干してある情景。また坊っちゃんが眺める蜜柑の木に生っているのは・・・県庁にちょうど掛けてあった看板から本県イメージアップキャラクターみきゃん、など挙げてゆくときりがありません。

浅田さんの機転と祖父江さんの情熱が織り交ざって素敵な展示空間となっています。

撮影にご協力してくださった数多くの方々に感謝いたします。

 

祖父江慎「坊っちゃん本」

暖簾をくぐるとそこは祖父江慎の坊っちゃんの顔コーナー。歴代の坊っちゃんの顔が、祖父江さんの顔のサイズで所狭しと並んでいます。最後はもちろん漱石さんの顔。坊っちゃんにはモデルはいないと語っていた漱石ですが、文学士である自身のことを「赤シャツ」になぞらえたりもしています。数学教師の同僚弘中又一氏は、天ぷらそばならぬしっぽくうどんを4杯食べて黒板に書かれたという逸話をもつ人物。坊っちゃんのモデルとされています。

 

そして、壁一面に広がる原寸大の坊っちゃん直筆原稿全て。番町書房が発行した2,000部限定版を複数持つ祖父江さんは、本展のためにこの直貼り展示を敢行しました。

 

『ホトトギス』から始まる長い長い出版の歴史を時の流れに沿ってたどります。祖父江さんによる校正の変遷や字体についてなどマニアックな解説つきです。最後はもうすぐ完成の凸版印刷の最新技術を駆使した極小文字サイズによる坊っちゃんポストカード。葉書一面のみの面積に、『坊っちゃん』全文が掲載されます。もちろんルーペなしには読めません・・・現在は同じ技術を使って印字した紙をご覧になれます。祖父江さん手描きの解説つきです。

 

猫たち

道後商店街に入るとすぐ左手のお店付近を根城にしている猫たち。浅田政志さんが滞在中に撮ったこの猫たちが展示室のどこかにちらほらと。祖父江さんいわく「猫のための展覧会」です。猫目線で探してください。(以上 下 へ続く)

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